遺言の掟8か条

第壱条 遺言は公正証書にて作るべし!

公正証書遺言がより安全で安心です。紛失や改ざんの可能性がありません。また、不備により無効となることも考えられません。検認の手続も必要ないので、速やかに移転登記や預金の払出しなどの手続がスムーズにできます。検認などの手間隙や心労を考えると、公正証書作成費用など安いものです。それでも、自筆証書遺言にするのであれば、作成前後に、専門家(弁護士や行政書士など)のチェックを必ず受けてください。

第弐条 記載は正確に!

遺言は遺言者の死亡後に効力が発生します。ところが、死亡後に遺言の内容を遺言者本人に再確認はできません。もし、不正確な記載があれば、その解釈が元で相続争いとなります。どこそこの誰々に、何をどれだけやるのか正確に記載すべきです。また、相続人に残すのであれば、「相続させる」です。相続人でない人(受遺者)に残すのであれば、「遺贈する」です。

第参条 漏れをなくすこと!

せっかく作成した遺言が元で相続争いとなることがあります。その理由の一つが、遺産の記載漏れがあった場合(一部遺言ともいう)です。不動産や預貯金、動産(家財道具)などは全て記載しましょう。そのためには、「その他一切の財産は○○に相続させる」という条文を最後に入れることです。これでもって、漏れがなくなります。その条文の前に記載されていた遺産を除く残り全部が含まれることになるからです。

第四条 予備的遺言を入れるべし!

遺言の中に記載した推定相続人や受遺者が遺言者より先に死亡することがあります。それでは、その部分については無効となってしまいます。そこで、推定相続人や受遺者が遺言者より先に死亡した場合の予備的遺言も入れておいてください。そうすることにより、再度作り直す必要がありません。最悪なのは、予備的遺言をせずに推定相続人(又は受遺者)が先に死亡してしまい、作り直しをする際には、遺言者が認知症(痴呆、ボケ)になっていた場合です。

第五条 夫婦相互遺言にすべし!

奥方の多くは自分が長生きするものとして、夫にだけ遺言を書かせ、預貯金だけは自分の名義にしています。もし奥方が先に死亡すると、預貯金の払出しが困ります。また、子供のいない夫婦であれば、最終的に夫婦の両方が死亡した場合には財産はどうするのか決めておく必要があります。「私が先に死亡したらあなたに全て相続させます」「あなたが先に死亡していた場合は姪の○○真央に全て遺贈します」などの夫婦相互遺言を作成すべきです。ただし、夫婦二人の共同遺言(一つの用紙に二人分を書く)は禁止です。無効な遺言となってしまいます。

第六条 遺留分を考慮すべし!

相続人(兄弟を除く)には法律で最低限認められた遺留分があります。その遺留分を無視した遺言はトラブルの元です。裁判を起こされれば、必ず負けます。そのような醜い相続争いを避けるために遺言はあります。やりたくない相続人に対しても遺留分を満たすような遺言を作るべきでしょう。もし、遺留分を無視した遺言とする場合は、その理由を付言などに書いておきましょう。

第七条 遺言執行者を指定すべし!

せっかく作成した遺言も、そのとおり実現されなければ意味がありません。遺言者の死亡後、遺言の内容を実現する責任者が遺言執行者です。遺言執行者には、推定相続人や受遺者、専門家(弁護士や行政書士など)がなる場合が多いようです。偏った遺言の内容の場合、遺言執行者となった相続人(又は受遺者)が猛烈な非難を受ける可能性があります。反対に、遺言執行者となった相続人(又は受遺者)が相続財産を隠し、独り占めしようとすることもあります。そのような心配をしなくてすむように、遺言執行者は専門家に頼んだほうが安心です。また、遺言執行者を専門家に依頼する場合、報酬は事前に遺言者と遺言執行者間で取り決め、遺言の中に記載しておくのが良いでしょう。専門家に頼む場合の報酬の相場は、30万円~遺産総額の3%などとまちまちです。

第八条 遺言書の存在を知らせるべし!

せっかく作成した遺言書であっても、遺言者の死亡後に相続人や受遺者が遺言書の存在を知らなかったら何の意味もありません。よって、作成後には、遺言書の存在を信頼できる人(相続人、受遺者、遺言執行者など)に知らせておく必要があります。実際は、遺言書を作成する際にも、推定相続人(または受遺者)と相談し、作成後にそのまま預けておく場合が多いのかも知れません。ただ、遺言の内容をどうしても秘密にしておきたいときは、遺言者の死亡の事実を知りうる人の協力が必要です。例えば、信託銀行の遺言信託では、公正証書遺言を信託銀行で預かって、通知人を事前に決めておきます。遺言者死亡の際は、通知人から信託銀行へ報告が来るようになっています。恐らく、通知人の多くは相続人か受遺者でしょう。自分ひとりでこっそりと自筆遺言書を作成し、誰も見つけてくれない秘密の場所に隠しておいては、書いた意味がありません。一方、遺言公正証書では、平成元年以降、遺言を作成した年月日、公証役場等のデータをオンラインで検索できるようにしています。ただ、遺言を公証役場で作った事実だけは、相続人等に告げておく必要はあります。遺言者死亡後に限り、相続人から調査依頼ができます。できれば、「エンディングノート」にも、遺言書の存在を記載しておくのが、遺言者の最低限の義務かも知れません。